東京地方裁判所 平成9年(特わ)423号 判決 1997年7月18日
本籍
神奈川県藤沢市高倉五二九番地一
住居
東京都大田区南馬込四丁目一六番七号
会社役員(元焼肉店経営)
西原功一
昭和一六年四月二一日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石垣陽介及び弁護人葛西宏安出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金二五〇〇万円に処する。
右罰金を全額納めることができないときは、五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都中央区勝どき二丁目一〇番四号宮野海運ビル二階において、「焼肉レストラン徳寿」の名称で焼肉店を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 平成四年分の実際総所得金額が九六一三万三四七四円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、東京都中央区新富二丁目六番一号所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が一三三〇万五六〇〇円で、これに対する所得税額が二〇七万二四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成九年押第七〇八号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四二四六万八〇〇〇円と右申告税額との差額四〇三九万五六〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 平成五年分の実際総所得金額が七五五〇万三一六二円(別紙2修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成六年三月一四日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が一〇九〇万八四〇〇円で、これに対する所得税額が一三八万一五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三二一九万九五〇〇円と右申告税額との差額三〇八一万八〇〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ
第三 平成六年分の実際総所得金額が六九七〇万三七九〇円(別紙3修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成七年三月一五日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の総所得金額が九八三万〇一六〇円で、これに対する所得税額が一〇八万七二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二七八〇万二〇〇〇円と右申告税額との差額二六七一万四八〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
(注) 以下の甲、乙に続く数字は、当該証拠の証拠等関係カード(検察官請求分)甲、乙での番号を漢数字で表記したものである。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(乙二ないし五)
一 二宮俊行及び西原フミ子の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の売上金額調査書、雑収入調査書、期首商品棚卸高調査書、仕入金額調査書、期末商品棚卸高調査書、給料賃金調査書、減価償却費調査書、地代家賃調査書、利子割引料調査書、租税公課調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、顧問料調査書、支払手数料調査書、諸会費調査書、新聞図書費調査書、保証金償却費調査書、小口現金経費調査書、雑費調査書及び申告所得調査書
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲三六)
一 大蔵事務官作成の領置てん末書
判示第一及び第二の事実について
一 大蔵事務官作成の譲渡損失との損益通算金額調査書
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の貸倒金調査書
一 押収してある平成四年分の所得税の確定申告書一袋(平成九年押第七〇八号の1)及び平成四年分収支内訳書一袋(同押号の4)
判示第二及び第三の事実について
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲二七、四五)
判示第二の事実について
一 押収してある平成五年分の所得税の確定申告書一袋(前同押号の2)及び押収してある平成五年分収支内訳書一袋(同押号の5)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の専従者控除調査書及び特別減税額調査書
一 押収してある平成六年分の所得税の確定申告書一袋(前同押号の3)及び平成六年分収支内訳書一袋(同押号の6)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも同条二項を適用した上、各所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法(平成七年法律第九一号附則一条一項により同法による改正前の刑法を指す。以下同じ)四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪について定めた罰金刑を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、焼肉店を経営する被告人が、確定申告の際に売上を一部除外するなどのいわゆるつまみ申告により所得を秘匿し、三年間にわたって、合計約九八〇〇万円の所得税を脱税したという事案である。
右のとおり、その脱税額は少なくなく、また脱税率も通算で九五・六パーセントにも及んでいる。そして、被告人は、売上を仮名で預金しながら、帳簿類を一切作成せず、確定申告の際には、その代行者に適宜の売上及び所得金額等を告げて確定申告書を作成させるなどしていたものであって、納税意識の希薄さ、脱税意思の強固さは明らかであり、その犯情は悪質である。被告人は、本件の動機について、老後の蓄えのためなどと供述しているが、国の財政が国民の公平な税負担の上に成り立っていることに思いを致せば、いかなる理由にせよ不正な行為で納税義務を免れて蓄財を図ることなど到底許されるところではなく、全く酌量に値しない動機である。以上の諸事情を併せ考えれば、被告人の刑事責任は重いというべきである。
他方、被告人は本件発覚後は事実を素直に認めて捜査等に協力し、反省の態度を示していること、本件に関してその後修正申告をして、本税については既に納付し、延滞税及び重加算税についても分割払いで完納できる見通しができつつあること、焼肉店を株式会社に組織変更して経理の明瞭化を図っていること、これまでに懲役及び罰金の各前科はあるが、懲役前科は少年時のものであることなど被告人のために酌むべき事情も認められる。
そこで、以上の諸般の事情を総合考慮し、被告人を主文の刑に処したうえで、懲役刑についてはその執行を猶予するのを相当と判断した。
よって、主文のとおり判決する
(求刑 懲役一年 罰金三〇〇〇万円)
(裁判官 阿部浩巳)
別紙1 修正損益計算書
<省略>
別紙2 修正損益計算書
<省略>
別紙3 修正損益計算書
<省略>
別紙4 ほ脱税額計算書
自 平成4年1月1日
至 平成4年12月31日
<省略>
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
<省略>
自 平成6年1月1日
至 平成6年12月31日
<省略>